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さいたまシティ在住 2児の父ブログ

宇多田ヒカル “DEEP RIVER”のレコード購入しました

      2018/04/14

ターンテーブル買ってから好きだったアーティストのアルバムをレコードで買い直すことが多くなった。まあ大抵聴き飽きてるのが正直なとこなんだけど、いわゆる自己満足ってやつですね、はい。そして宇多田ヒカルの”DEEP RIVER”もそんな一枚。

今年の6月頃に手に入れて、紹介したいなと思い、本エントリーを書き始めたんだけど、8月に宇多田ヒカルの母親にご不幸があり、そのままずるずると時間が経ってしまっていました。ただこのまま年を越すのもモヤモヤ感が残るので、一念発起して書きます。自分なりの解釈ということで。

宇多田ヒカル – DEEP RIVER

本アルバムは2002年の4月リリースされた宇多田ヒカルの3rdアルバム、個人的には彼女の最高傑作だと思ってます。First LoveやDistanceがR&Bシンガー宇多田ヒカルの音楽作品だとしたら、本作は1人の生身の女性 宇多田光まさにそのもの。パーソナルかつコンセプチュアル、それでいて普遍的ですらある。ジャケットにしてもかなり異色。本作以外のジャケットは見せる(魅せる)感じのものであるが、本作はじっとこちらを見据えており、その目に湛える感情をこちらから窺い知るのは難しい。一糸まとわぬ(ように見える)姿も、ありのままの自分を表現しているということなのではないだろうか。

タイトルの 『DEEP RIVER』 は、遠藤周作の『深い河』からインスピレーションを受けたというのは有名な話。僕もリリース当時そのことを知ってはいたんだけれど小説までは読んではおらず、今回このエントリーを書く上で読んでみました。この小説から何を読み取り、考え、それがこのアルバムに影響を与えたのか、それがこのアルバムを読み解く上でのキーになるのではないかと。参考までに遠藤周作『深い河』のWikipediaページを貼っておきます↓

深い河 – Wikipedia

このアルバムにはシングル曲だとFINAL DISTANCE、traveling、光、SAKURAドロップス、Lettersが収録されています。かなりの名曲揃いで、並べてみるとかなり振れ幅がデカイかと思います。(Travelingのぶっ飛び具合は今聴いてもすごいでしょ!)ところが1曲目から通して聴くと、不思議と統一感があり、一貫して静謐な雰囲気すら漂っている。喜怒哀楽のとんでもない感情の起伏全てを飲み込みながら点と点を、線と線を結ぶように大きな流れをつくりあげている。まさに『DEEP RIVER』と呼ぶに相応しいだけの懐の深さを持っている。

アルバムがリリースされた2002年当時の背景を考えると、前年はアメリカの同時多発テロが起こった年でもあった。また宇多田が被害者となった女の子にFINAL DISTANCEを捧げることとなった、あの凶悪な事件もその年に起こっている。日米を拠点としていた彼女にとって、これらの出来事が非常に大きなショックであったことは想像に難くない。同時に、彼女個人としてもアルバムレコーディング中に卵巣腫瘍を煩うということがあり、不安かつ大変な時期でもあったはずだ。

ただその一方で、後に夫となる紀里谷和明との出会いもまた2001年頃と思われる。2ndアルバムDistanceのジャケット撮影から始まり、その後のTraveling、光、SAKURAドロップスのPV撮影まで。2002年の9月に結婚していることを考えても、この間すでに交際していたんだろうなと。そしてそれは、アルバム全編から滲み出る紀里谷和明に向けた想いからありありと伝わってくるかのよう。

1曲目はシングルにもなった”SAKURAドロップス”。失恋の痛みと新たな恋の誓いに、毎年花を散らしてそれでもまた翌年花を咲かせる桜に自身の恋愛観を重ねている。遠藤周作『深い河』の登場人物に磯辺という男性がいて、彼が妻と死別するシーンからこの小説は始まる。その妻は死ぬ間際に『必ず輪廻転生し、この世界のどこかに生まれ変わる、必ず自分を見つけてほしい』と夫に伝えるシーンがある。『恋をして全て捧げ 願うことはこれが最後のheartbreak 桜さえ時の中で揺れて やがて花を咲かすよ』の歌詞とリンクするこの曲が1曲目なのは非常に興味深いところ。

一転、2曲目はアルバムでいちばんアップテンポな”Traveling”へ。これはアレだ!誰しも経験したことのある恋をしたときの高揚感じゃないですか!?そして続く3曲目の”幸せになろう”で『恋人になろう 手をつないで歩こう』とストレートな想いへと繋がっていくのです。

4曲目のアルバムタイトルにもなっている”Deep River”は本アルバム中、いちばんスピリチュアルな曲。『剣と剣がぶつかり合う音を知るために託された剣じゃないよ』と歌う一方、『自分らしさというツルギを皆授かった』と。再び小説『深い河』に話を戻すと、テーマの一つに、汎神論と唯一神論という概念の対比がある。登場人物の大津はクリスチャンでありながら、キリスト教の排他的な姿勢に疑問を感じて、汎神論的、いわゆる日本人的なキリスト教を模索する描写が描かれている。著者、遠藤周作が至ったという『日本人的なクリスチャン』という世界観を引き合いに出しながら、同時多発テロに対する宇多田なりのメッセージをこの曲に込めたと考えるのは深読みだろうか。

5曲目は”SAKURAドロップス”のカップリングにもなった”Letters”。恋人に向けた曲だと思ってたけれど、実は母親に向けられた曲だったと知ったのは、彼女の死後なんですよね。それを知って聴くと、そこに込められた意味が何倍にもよりシリアスに、より大きな実感を伴って聴こえてくる。心の底から母からの愛情を望んでいたんだなと。

既発曲で固めた前半後半に対して、6曲目”プレイボール”から9曲目”嘘みたいな I Love You”までの中盤は全て新曲で構成されています。前半部後半部がDEEP RIVERの骨だとしたら、この中盤は肉という感じなんですよね。より太くしているイメージ。何よりここで鳴らしている宇多田の表現(声から歌から音作りから全部)って1シンガーの域を超えて、もはや情念の塊というくらいに人間臭さと彼女自身の体温を感じさせるものなんですよ。この中盤が、このアルバムを象徴しているのかなとも。個人的なアルバムのベストトラックも、この”嘘みたいな I Love You”なんですよ。なんかね、聴いてるとたまに泣きそうになるくらい、心を揺さぶられるんですよ。

10曲目は”Final Distance”、2ndアルバム”Distance”のリメイクです。オリジナル版が恋人との幸せな距離感を歌ったものである一方、リメイク版は、歌詞は同じであるにも関わらず、深い悲しみを湛えた曲へ化けている。これを聴いて想起するのは、”Letters”とは対照的に、母が我が子を想う気持ちのこと。それが”最後の”Distanceだなんてあまりに悲しすぎる。

それでもこのアルバムに救いがあるのは、最後に”光”があるから。僕がイメージするDEEP RIVERというのは、真っ暗な夜の中を流れる深い川。透明なんだけどシロップのようにどろっとしている、そんなイメージ。1曲目”SAKURAドロップス”から10曲目”Final Distance”ってまさにそんな夜の光景なんだけど、”Bridge”が架かった先には、一気にまばゆい程の”光”とともに視界が広がっていく。と同時に全ての物語が一気に収束していくカタルシス。全てはラストの”光”のためにあったのかと思わざるを得ないくらいに。
『完成させないで もっと良くして ワンシーンずつ撮って いけばいいから 君という光が私というシナリオ 映し出す』
ワンカット一発撮りのPVは当時話題になったけれど、そのPVを撮っているのが後に夫となる紀里谷和明氏。でもまさかカメラ越しの告白が、その後の結婚に繋がるとはね。

ちなみに、このアルバムをリリースしたときって彼女はまだ齢19の女の子だったんですよね。僕は彼女と同い年なので、当時はほとんど若いということを意識していなかったけれど、自分が30になって聴き直してみると、どんだけ深いことを言ってるんだって驚きですよ。だからこそ「人間活動に専念」というのが、意外ですらあったのだけれど。

長くなってきたので、そろそろまとめ。

760万枚売れた1stに比較して、DEEP RIVERはその半分の300万枚(それでも十分すぎるくらいに売れてるけれど!)、おまけに元々メディアの露出が極端に少なく、2011年以降はアーティストとしての活動を休止していることもあって、「宇多田と言えばFisrt Loveだよ」という紹介のされ方が多い気がして、このエントリーを書いている部分も少なからずあります。”DEEP RIVER”も凄いアルバムなんだから皆聴けと。これこそが「表現」なんだと。

そして宇多田に対して思うことは、今度こそ幸せになってほしいなと、赤の他人ながらに思います。そんでどれだけ時間かかっても良いので、また戻ってきてもらって、そのときはDEEP RIVER以上に深い作品を聴かせてほしいなと。今からそれが楽しみで仕方ないんですよね。

最後に余談なんだけど、2002年はこのアルバム筆頭に、黒くて深い作品がたくさん出ていた気がします。小沢健二 “Eclectic”とかTHA BLUE HERB “SELL OUR SOUL”とかchemical brothers “Come With Us”とか。どれも聴き込んだなぁ。良ければ併せてどうぞ。

 - ・音盤紹介 , ,

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